プログラム紹介
トリジュクのプログラムのポイントを大きく6つに分けてご説明いたします。
ポイント1 どうして「演劇表現」なのか?
まずは、なぜ「表現」か。社会が順調に成長している段階では、知識や技術の習得だけで、つまり先行世代のやり方をそのまま引き継げば、大人になってもやっていけます。しかし、現在のような時代の転換点では、知識、技術を身につけるだけでは足りない。知識や技術という既存のアイテムを、組み合わせ、応用し、人と分かち合いながら発展させていかなければなりません。それで、文科省の新学習指導要領でも、「思考力、判断力、表現力」が必要だと言っているのです。入れるだけではなく、出すこともちゃんとやれるようになりたい、ということです。「表現」を目指すことで、考え、取捨選択し、順序を考えるようになります。
もうひとつ。なぜ「演劇」か。本当はダンスでも絵でも音楽でもメディア表現でもいいのです。ポイントは、通常の教科学習による学力差が出ず、ずべての子どもが平等にスタートラインに立てることです。それから、芸術表現ですから、いろいろな良さがあります。答えが唯一ということがない。互いの表現の良さを味わうことができます。で、「演劇」ですが、これは「鳥の劇場が演劇の専門集団だから」というのが、正直な答えです。演劇のことをよく知っていて、その知恵がいろいろにあるので、それを道具として子どもたちに遊んでもらえるよう、いろいろな人材、引き出しがある、ということです。鹿野学園の子どもたちには、だいたい一年に一回は、劇場で本格的な演劇作品を観てもらっていて、日本の一般の小中学生と比べたら、ずいぶん演劇に詳しい、見慣れている。そういう蓄積を生かすことでもあります。
ポイント2 どうして集団作業なのか?
人間は、個人の時間と集団の時間の両方を持っています。一人の時間の中で、深く考えたり、自分だけの世界を養っていくことは、とても大切です。一方で、集団で一つの目標に向かって力をあわせることに慣れたり、そのためのテクニックや心構えを知ることも大切です。集団作業は、真剣にやろうとすればするほどに、難しい仕事です。が、その中でしか味わえない、自分への気づき、他人についての気づきがあります。人間は、一人でできることはあまりなくて、やはり多くの人と力をあわせることで、何かを達成できる。共同作業が足し算でなく掛け算になるその喜びは、人間の根源的なものです。そして、その幸福の中で、一人ひとりの個性への相互的な敬意も生まれ、それぞれの自己肯定感、個の大切さの認識にもつながっていきます
集団でやるのでない芸術表現ワークショップも可能です。が、このような理由で、集団作業を方法としています。
ポイント3 なぜ二日に分けるか?
4時間セットのワークショップの特徴をなすのは、3時間目の「振り返り」です。先立つ2時間の表現ワークショップの中で、自分が、自分たちが、何をどのようにやったのかを客観視する時間です。客観視のためには、少し脳を落ち着かせた方がいいようです。楽しさが体と頭に残りつつということで、「翌日」を使います。
ポイント4 振り返り(省察)って何?
はじめの動的な2時間を振り返り、それに良き意味付けをしていくのが、この時間です。反省というと、悪いことを思い出すことですが、この時間は、良かったことを主に思い出します。この時間は、鳥の劇場のスタッフではなく、学級担任の先生が中心で進めます。
素材となるのは、「振り返りシート」。前日2時間の直後に、参加児童生徒の一人ひとりに書いてもらっています。印象に残ったこと、楽しかったことなどのホカホカの感覚が記録されています。この中の言葉を先生が拾いながら、一人ひとりの行動や認識に光を当て、良かったことを具体的に学級全体に共有します。ここに、先生自身が気づいたことに関するコメントも加わります。
あわせて、前日の写真や動画の記録も、みなで見ていきます。自分たちの楽しそうな表情や動き、声などを改めて見ることで、自分たちの活動への肯定感が増します。
ポイント5 4時間目は何をするの?
振り返りの時間を通じて、子どもたちは、もっとやりたくなります。自分たちの共同作業を、より良いものにしたいというエネルギーにあふれてきます。この極めて人間的な思いを受けて、じゃあもう一度やってみようという新たな挑戦、そしてその発表の時間が4時間目です。
現実的な制約もあるので、それほど多くの再挑戦の時間をもつことはできないのですが、子どもたちは、短時間の中でも生き生きと新しい試みに取り組み、驚くような成果を生みます。
ポイント6 4時間セットでPDACになっている。
P=プラン、D=ドゥ、C=チェック、A=アクション。最近よく言われます。4時間セットは、実はこれになっています。はじめの2時間で計画から実行、3時間目で確認、4時間目でそれを踏まえての再挑戦です。良き仕事の進め方の模範として語られるモデルですが、実際、うまく行った仕事は、この形になっていることが多いと思います。年間に何度か、この実践を繰り返すことで、子どもたちは、落ち着いて、その結果として集中して新しい挑戦に取り組み、多くの新しい発見や手応えに出会い、自分の無限の可能性を信じることができるようになっていきます。
以上、トリジュクのポイントを6つ書きました。ポイント3〜6については、下の図式( 青山学院大学社会情報学部 学習コミュニティデザイン研究ユニット作成『芸術表現体験活動と省察活動による教育プログラム活用例紹介』の資料より引用)でも確認できます。