「生きる力を育む」演劇のワークショップ開発プロジェクト

トリジュク

トリジュクについて

 劇場が社会にどのように役立つかを示すことが、演劇を創り公演することと合わせての、鳥の劇場のもう一つの柱です。 演劇創作は、当然最も重要なことです。現代劇の創作は直接に社会とつながる行為です。 ただ、それだけでは、資源の投下価値が短期的に計られる現在では、そして人口の少ない、その結果観客動員もそう多くはない我々の劇場は、一部の人のためだけの閉じられた場と思われかねない。
 劇場は、ただの場ではありません。 演劇の長い歴史を背景に、創り手がいて、観客がいて、気持ちとか思いとか、知恵とか経験が蓄積・醸成される場所です。 その蓄積が、場所から少しずつ浸み出し、世界や地域の人や歴史やいろいろなものと化学反応を起こし、未来に向けた新しい何かが生まれる。 そういう時間のかかる動きの発信源です。創作の場としての劇場が、鳥取県出身の経済学者・宇沢弘文さんが唱えた社会的共通資本として広く認知されるのが、我々のやりたいことです。
 この目的のために、満をじして取り組むのが、このトリジュクプロジェクトです。 劇場近くの鳥取市立鹿野小学校、鹿野中学校、鳥取県立青谷高校と連携し、演劇を媒介としながら、子どもたちに潜在するいろいろな力を引っ張り出し、勇気付けること、その積み重ねを通じてグローバルにもローカルにも世界を変えることを目指します。
 やることは、極めてシンプルに言えば、演劇ワークショップと振り返りです。 普通の言葉で説明すると劇場がやる教育事業ということになるでしょう。 ただ、ちょっと慎重でありたい。教育という言葉にはどうも違和感がある。 「教育」は「訓練」と同じ種類のニュアンスがあるからです。 その時代が求める特定の能力(典型的には兵隊としてのとか経済人としてのとか工場労働者としてのなど)があって、それを前提に好適者の選別・格付けと技術の刷り込みを行うイメージです。 現在主流のグローバル人材の育成という目標にも同じニュアンスがあって、非常に21世紀的でポジティブな感じもあるのですが、競争的、エリート主義的な匂いも強く、ちょっと危険な言葉だと思います。
 少し脇道に逸れました。 21世紀に豊穣なイメージを期待していたのは、私の勝手かもしれません。 が、ジョージ・オーウェル「1984」的暗い未来が実現しつつあるのは、多くの人もお感じのことではないかと思います。 そういう暗い未来ではなく、いろんな形や大きさや色の花が咲く、多層的、多声的、多極的で自治的、寛容で活発で人に優しい未来を目指したい。 そして我々は、そういう社会の建設に参加できる人材の育成を目標とし、子どもたちの学びと成長のサポートとをしたい。
 青山学院大学大学院の苅宿俊文教授のチームにご助言いただき、プロジェクトを進めます。 苅宿先生は、研究者として最新の学習科学の知見を持たれ、同時に実践者としての情熱と経験を備えられた最高の同伴者です。 苅宿さんと目標として共有していることは二つです。
 子どもたちはそれぞれに実に多様な、素晴らしい能力を持っている。我々が名付けることのできない力も含めてです。 その個々の力に子どもたちが自信を持ち、その力をどんどん伸ばせるようお手伝いをしたい。 それから、その個々の能力を組み合わせて難しい仕事に取り組めるよう、他の人といっしょに仕事をする技術も身につけてもらいたい。そのお手伝いもしたい。これが共有の一つ。
 もう一つは、このお手伝いを長く続けようということ。 人が変わるということは、コミュニティーが変わるということ。 しかし一方でコミュニティーが変わらなければ、本質的に人が変わることにつながらない。 人、学校、地域が秘めたよき力がもっともっと引き出され、より豊かなものとして再編され結実していくのには少し時間がかかります。 何かと言うとコスパ(なんという言葉でしょう)が叫ばれる現在ですから大変なことなのですが、時間がかかることは時間をかけてやるしかない。
 この二つを、目指すこととして共有し、トリジュクプロジェクトを進めていきます。

 地域の人たちもこの活動を応援してくれています。もちろん学校もとてもとても前向きです。どうかこの取り組みに激しくご期待いただきつつ、少し辛抱強く見守ってください。


鳥の劇場芸術監督 中島諒人